迷子旅の追体験映画『旅のおわり 世界のはじまり』ウズベキスタンロケ

どこかへ行きたいなあ〜
映画の中の人たちを見ながら「いいなあ〜」と
どこかへ行きたい欲がたまる。
このコーナーは言わば、旅欲をたまらせる映画紹介のコーナーです。

今回は旅の醍醐味!
うずうずもハラハラも追体験できちゃう映画です
『旅のおわり 世界のはじまり』
全編、ウズベキスタンでオールロケが行われており、
美しい自然や、ローカルな街並み、さらに日本とゆかりのあるナヴォイ劇場も登場。
ウズベキスタンってどこだっけ。と検索したら、トルコの右の方でロシアの南。
シルクロードがあった中央アジアだ。
作中でも話されているが、海がない内陸の国。
はじめての街を直感で歩いたり、地元のマーケットやローカル遊園地を訪れたり。
観光よりも地元ならではの雰囲気を知りたくて、そんな風な旅をすると
見知らぬ土地の空気を感じるだけで、わくわくして楽しい。
でもその楽しさの裏には
言葉が通じなくて食べ物が買えなかったり、ただ見るだけになったり
迷子になってバスに乗れなかったり…
うまくいかないカッコ悪さや失敗もつきもので。でもそのほろ苦さも旅の醍醐味。
迷走中の主人公を見守る
この映画は、前田敦子演じる主人公 葉子のそんな「旅」を見守るような感覚になる。
しかも「旅」といっても「旅行」ではなくて「人生迷子旅」…
「本当は何を望んでいるの?」
キーポイントとなるシーンで、ある対象物に対して葉子がつぶやくセリフだ。
間違いなく、自分自身に語りかけている。
あらすじはこうだ。
葉子は、世界ふしぎ発見のような番組のリポーターとしてウズベキスタンにいる。
仕事はプロとして淡々ときっちりこなすけれど
本当のやりたいこと(歌うこと)ができていなくて
カメラが回ってないところでは、完全に人生迷子の顔。
誰をも拒絶し、完全に1人なのである。
正直、葉子に対して
ああしたらいいのに、こうしたらいいのに。と思う瞬間もある。
完全に閉じこもり空回りなので、歯がゆい気持ちもでてくる。
そんな閉じこもりの葉子も
本当にやりたいことができていないと、カメラマンの岩尾(加瀬亮)に吐露する場面がある。
その時の加瀬亮の表情や話し方は、とてもとても惹き込まれる。
同じことを経験してきたであろうことがわかる上に
その気持ちに対して自分なりに葛藤して今ここにいることが伝わる。
先輩として、話しているのだ。
し、痺れる…!
ああしたらいいのにこうしたらいいのに。なんて思っていた自分は
なにもわかっていないと痛感。

全て「ノー!」と遮断して走り出す葉子。なんでー!と思っちゃうけどね
物語の序盤は、どちらかというとコメディと不穏が入り混じる。
幻の魚が全く釣れなくて、葉子のせいにされてしまったり
炊けていないご飯を食べさせられたり、
(名場面の)地元の遊園地事件など、
番組の撮れ高のため、葉子は散々な目にあう様子もある。
葉子のプロフェッショナルさも相まって、不憫でちょっと面白い。
俯瞰でみているから面白いんだけど、
葉子からしたらまじめに嫌なことだったり、断れないない圧をかけられたり
ある種、諦めの場面を見させられる。
これも見守るしかないのだ。

ホラーじゃないけど、黒沢清さを感じる
メガホンを持つのは国内外で高い評価をされている巨匠のひとり黒沢清監督。
じわじわくる不穏な怖さや
現実と虚構の境界が曖昧になるような表現をされるのが
黒沢清っぽいと感じる部分だが
ウズベキスタンの見慣れない美しい街も相まって
本作もその黒沢清みが溢れていた。
葉子をただ追いかけているだけなのに
ずっとなんかソワソワする。
それは、レイヤーの下に不安や疎外感がずっとあって
じわじわと、葉子の感じるそのなんとも言えないしっくりこなさ。というか。
そういうのがずっと伝わってくるから。
映画という虚構がこちらの現実に侵入してくる感覚もあり
このじわじわと染み渡ってくる感覚は黒沢清作品を味わっているのである。
旅のおわり、そしてはじまる
タイトルにもある通り、旅は終わるのだ。
そのずっとじわじわきていた感覚が明確に消えるシーンは
軽やかで自由で、景色も合わせてサウンドオブミュージックのよう。
そして世界がはじまる。
新しい旅だ。
葉子はウズベキスタンで
自ら起こしたアクションによって救われる。

最後に、加瀬亮以外の番組クルーたちも見どころだ。
こういう人たちリアルにいそう…
ちょっとしたセリフや仕草から
絶妙にイヤァ〜な居心地の悪さがでていたり
この人も人間だなあ。と深みを感じたり。役者はすごいなあ。
現地の通訳テムル役を演じたのは、アディズ・ラジャボフさん
ウズベキスタンではトップ俳優の方のようで
日本語は話せないスタートだったと聞いてびっくり。

ウズベキスタンはイスラム文化圏でありながらも、親日的で温和でホスピタリティのある国だそう。いつか行ってみたいな〜
information
「旅のおわり世界のはじまり」
2019年製作/120分/日本・ウズベキスタン・カタール合作
監督:黒沢清
Prime VideoやU-NEXTで配信中のようです。
