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【アステロイド・シティ】難解なのか?ウェスアンダーソン監督最新作9/1公開

アステロイド・シティ-タイトル
みうのしん
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みうのしん
みうのしん

こんにちは。みうのしんです。

ウェス作品では『ライフ・アクアティック』が一番好きです。

2023年9月1日公開のウェスアンダーソン監督最新作『アステロイド・シティ』

みんなを虜にしてしまうウェスワールド。
楽しみにしていた方も多いのではないでしょうか。

今回も豪華な役者陣たちが揃い、
作り込まれすぎたポップでキュートなビジュアル
画面いっぱいの眼福な世界は、
ぜひ映画館で体験するしかないですね。

わたしは、ミニシアター系の映画館で見たのですが、
前の列の席におじいさん二人組(たぶん友達同士)と
その横に1席あけて、おじいさんが一人で見に来ていて、
ウェスアンダーソンを見る上でこの上ないコンディションでみることができました。
視界が全て整っていました。

アステロイド・シティの映画体験

初見ではややこしい、難しいとのレビューが多かったので、
みる前に知っておいた方がいいかも。
と思ったことも含めて、
ネタバレなしでざっくり感想です!

『アステロイド・シティ』

アステロイド・シティの構造

あらすじ
謙虚な宇宙人がきます。

『アステロイド・シティ』のあらすじを説明するのは少し複雑です。

というのも、
タイトルになっている『アステロイド・シティ』は、
コンラッド・アープ(エドワード・ノートン)という劇作家がつくった話

その舞台の創作過程
テレビで放送している
という入れ子構造。

予告でみるカラフルな世界は、
『アステロイド・シティ』というなのです。

1.カラフルな世界は作られた世界で、
人間たちは全員、役を演じている。
2.モノクロの世界では、
その劇を作っている作家や俳優たちの舞台裏が描かれ、
3.それを放送するテレビ番組。

3層になっています。
しかもその層をいったり来たりするので、
正直、初見で前情報なしでは混乱しました。

む〜ややこしい。

難解になるわけ-いろいろな要素がつまってる

さらに最近のウェスアンダーソン作品には
多い傾向ではありますが、
セリフも早くて小難しく、
役者には表情があまりない。

情報量も多くて(これは幸せなことだけど)
1回みただけでは、処理しきれず。

内容に関しては、結局なんだっけ
となってしまったのは
正直なところです。

ウェスは1つのアイデアからではなく、
少なくとも2つ以上の異なるものを掛け合わせて
映画をつくりはじめるといいます。

二つが掛け合わさったものに、
さらに、さらにと、
掛け合わせていっているので、
実は難しくて、当然だったりします。

今作は
主役のジェイソン・シュワルツマンを軸に
話を考えていったこと

50年代アメリカの演劇界と映画界
そして、それをつなぐ役目となった
テレビの関係性に魅了されたこと。

当時、活躍した劇作家や演劇指導、ハリウッドスターたちなど、
いくつもの人物や作品、出来事に
インスパイアされ、
イメージを膨らまし、
映画を制作していったとのこと。
(パンフレットのインタビュー記事参照)

さらに冷戦による人々の政府に対する不信感。
ハリウッドでは華やかしいスターが活躍する中、
裏では赤狩りによって映画は規制され、
自由に表現できなかった時代。
さらに核実験、軍による科学技術の開発、宇宙人の隠蔽など、
時代背景の要素も加わります。

それらの要素が、
どんどんウェスフィルターを通っていき、
最終的には誰がみても「ウェスアンダーソンだ」
としか言いようのない
あの世界やキャラクターが生まれていきます。

これには、いつも脱帽です。

でも、やっぱりここまでいろいろな要素を感じると、
難しく思うのはしょうがない気がしますね。

わたしのざっくり感想

『アステロイド・シティ』イラスト タイトル

アメリカン好きのわたしにとっては
ここ最近のウェスアンダーソン作品の中では
一番好きな世界感でした。

アステロイドシティのレゴが欲しい…!

先ほど、
書いたように一度見ただけでは、
全体を通してなんだったっけ。となりましたが
好きなシーンは、たくさんあってとても満足です。

やっていることは、いつものウェスアンダーソン

初見では、なんだか難しく感じますが
振り返って考えると
やはりいつものウェス・アンダーソンだなあ。
と思います。

印象的な制作者のきもち/治療

よくウェス作品は、
箱庭映画だと言われますが、
作りこまれた世界で、
自分の心と向き合っていく登場人物と、
それに重なる監督自身。
そして、それをみているわたしたち。

全体を通して印象的だったのは、
舞台裏と劇中をいったりきたりしているうちに、
たびたび、その境目がなくなる部分
表現者と創作物がどっちにも影響し合うシーンです。

劇中劇の『アステロイド・シティ』の中では、
宇宙人が謙虚に登場し
街はパニック。(その時はみんな静かに見守っていましたが笑)
政府は、隠蔽をはかり
目撃した人たち全員を隔離し
身体検査をさせたりします。

一方、舞台裏では
宇宙人はなにかのメタファーとして登場させたが
なんのメタファーかわからないという。

他にも、オーギー(ジェイソン・シュワルツマン)は
劇中、わけもわからず自分の手をホットプレートで焼き
なんでこうしたのか自分でもわからないと言います。

舞台裏では
オーギー役のジョーンズ(ジェイソン・シュワルツマン)も
演じることがわからなくなり
作者や演出家に聞きに行きますが
彼らも曖昧な言葉で、明確な答えはありません。

その後、尺の都合でカットされた
彼の奥さん役(マーゴット・ロビー)との対話シーン。
ここで、さらに表現者と創作物の境目が
なくなっていく瞬間があります。

それをスクリーンで
見ているわたしの側にも
その境目がなくなったと感じる瞬間でした。

考えてみると
現実を生きる私たちにとっては
わからないことだらけが当たり前。
突然起こる出来事には
映画のように辻褄合わせやオチなんかありません。

自分でもよくわからない気持ちを
理解しようとして
人と話したり、ノートに書いたり
表現したりして答えを見つけられるかもしれないし、
見つからないかもしれない。
これが答えだと思っていたら、別の答えが待っていたり。
答えなどなくて他人に委ねたり、一緒に考えたりします。

今回の複雑なこの構成にした理由。
あれだけ過剰に作り込みをする
ウェスアンダーソンだからこそ
リアルで繊細なこころが
そこから感じとれる気がします。

よくわからなくても、それは、そのままでいいんじゃないの。
そのくらいでいいのだと、
なんだが治療された気がします。

タッパーに入った母親

『アステロイド・シティ』タッパーに入った母。妹たち。

今回はスペインのチンチョン郊外に
アステロイドの街を作ったようです。
砂漠や青空は本物だったのですね。

そのセットのおかげで
横移動だけではなく
ぐるっとカメラを360度回して魅せる
カメラワークがあったりします。

また、ギミックのある小道具や
パペットで動かしているナゾの鳥。
ミニチュアの汽車が走るシーンなど。
モノを感じる映像づくり

ウェスの世界のモノたちは
その深刻な内容とは裏腹に
シュールなコミカルさを演出しています。

主人公オーギーは
自分の奥さんが亡くなったことを
子どもたちに告げられず、
義理の父(トム・ハンクス)に詰められ、
タッパーに入った奥さんをかかえ
子どもたちに打ち明けます。

息子のウッドロウ(ジェイク・ライアン)は
うすうす気づいていましたが
ウッドロウの妹3人は
死を理解できていません。

死をどう受け入れるか。
ウェス作品には
よく出てくるテーマですが
その重たい内容に反して、
遺灰がタッパーに入っていたり
3人の妹たちの埋葬の儀のための服装など、
なんとも愛らしくて、ウェスらしい。

ビジュアルのためだけではなく
物語の構成のひとつとしても
ウェス作品の小道具や美術は
重要な役割をしています。

ウェス・アンダーソンの映画のプロップ(物語のキーとなる小道具。主に紙媒体)
なども担当しているデザイナーが書いた本もあります。
小道具の重要性や
その制作裏も載っていて
おすすめですよ。
『映画プロップ・グラフィックス スクリーンの中の小道具たち』(アニー・アトキンズ著/グラフィック社)

賢い子どもたちの活躍

『アステロイド・シティ』勲章

『アステロイド・シティ』には
たくさん子どもたちが登場します。

宇宙人が来たことにより
大人たちがてんやわんやしている中
天才キッズたちは自分達の信念に基づき行動をおこします。
軍主催の科学授賞式で称された発明品を
国のためではなく、自分たちのために使います

ジューン先生(マヤ・ホーク)も
動揺しつつも宇宙人についての授業を
子どもたちにはじめます。

そのクラスで
ひとりの男の子が、宇宙人のために歌を作ったと披露しますが
その瞬間、突然演奏がはじまり
みんなでダンス。
直前まで、「今は歌は違うんじゃないかしら」
といっていたジューン先生もなぜか一番ノリノリ。

急すぎて、なんなんだ…。
と笑ってしまいましたが
めちゃめちゃ良いシーンでした。

どんなことが起きても子どもたちは、
いつでも自分の心に従っています。
ウェス作品に登場する子どもたちは、いつも大人よりもとても賢いです。

人間のかかえるちょっと切ない気持ちや
どうしようもないことも
そのままで、そのままの形で
愛らしさに変えてしまうウェスアンダーソン。

上げ出したらキリがありませんが
「いいよね!あのシーンのあそこ!」と
言いたくなるシーンがたくさん。

秋頃には、ウェス・アンダーソン監督の短編。
ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(Netflixで9/28配信)も控えており
今年もまだまだウェスワールドは、続きます。
嬉しい限り!

『アステロイド・シティ』の予告編はこちら

information

『アステロイド・シティ』

日本公式HP:asteroidcity-movie.com

2023年製作/104分/アメリカ
原題:Asteroid City
監督:ウェス・アンダーソン

配信:amazon prime / U-NEXT / Apple TV / Hulu 他(2024.03.24時点)

みうのしん
みうのしん
関西在住 / フリーランス
みうのしんと申します。ニューシネマ映画研究所同好会部長を勤める(残念ながら廃部)映画はなんでも見るようにしていますが、特にジュブナイルものがお気に入り。登場人物たちがちゃんと暮らしていることがわかるとなお良いです。毎日マイペースに創作物をみています。
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